私が真福禅寺で得度式を迎えたのは十九歳の七月のことであった。得度とは僧侶になるための出家の儀式をいう。
宋覚(そうかく)師が執り行い、髪の最後の一結びは逸外老師が剃り落してくれた。
式には父と母が出席した。父は六年の刑期を終え、出所したばかりであった。
母は一人息子が坊主になることをあまり喜ばなかったが、父はなぜか宗覚師を気に入り、しばしば真福寺を訪れては宗覚師と酒を飲み交わす仲となった。しかし私はいささか肩身の狭い思いをしていた。息子が得度するときは、その実家が師匠寺にお礼をするのが一般的だが、我が家にはお金がなかった。一切の面倒は宗覚師が見ていてくれた。こんなこともあった。
長い間、刑務所に入っていた父が、私に迷惑をかけたお詫びとお祝いを兼ねて何か買ってやろうと言った。私は当時、スクーターに乗って真福禅寺の檀家回りをしていたので、車が欲しいと父にねだった。父は私に中古の車を買い与えた。いまでもよく覚えているが、マツダ・ルーチェという車種だった。父はその車を知り合いのヤクザから買ったのだが、結局、その代金を払えなかった。ヤクザは真福禅寺に取り立てに来た。宗覚師は黙ってその代金を払った。私は宗覚師に車を買ってもらったと同じだった。
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