2009年9月12日土曜日

霊場 3

私が師事した阿闍梨は、日本という国が持つ神秘の力を信じていた。私が歩いた道のりを阿闍梨は先に歩いていた。阿闍梨が遷化したあと、私も師匠を見習い、夜空を見上げるようになった。十五夜には月を相手に酒を飲んだ。冬の夜空は北斗七星が高くなるので、毎晩のように星空を見た。星の光は大小さまざまに地上に降り注ぎ、その光の大小に応じた山をつくる。山は地の星なのだ。密教で行う北斗供(ほくとく)の本尊は北斗七星である。高賀山を巡る六つの神社は、高賀山を北極星とした北斗七星を模している。

2009年9月11日金曜日

霊場 2

西洋にレイラインという考え方がある。イギリスのアマチュア考古学者アルフレッド・ワトキンスが、二十世紀の初頭に提案した考えだ。彼はイギリスにある巨石遺跡群が一直線上に点在することを発見した。巨石遺跡がある場所の地名に、アームレイ、キナーズレイ、ウォーブレイなどレイで終わる場所が多いことから、この古代の聖地をつなぐ直線をレイライン(Leyline)と名づけた。レイ(Ley)という英単語は草地という意味だが、古い用語法に「光」と「まっすぐな道」という意味がある。以後、世界中で霊的な場を結びつける直線を探すレイハンターが多く現れた。私もこれに倣い、地図のうえで、実際に行った霊場に丸をつけ線で結んだ。その何本もの直線が重なったところに高賀山が日本という国のちょうど中心にあると確信していた。現在、高賀山があるのは関市だが、この関を境に、東を関東、西を関西といった。

2009年9月10日木曜日

霊場 1

私は日本の霊場を回っていた。北海道の剣山、東北の出羽三山、恐山、岩木山、磐梯山、早池峰山、葉山、関東の高尾山、赤木山、筑波山、日光山、大山、榛名山、箱根山、北陸の白山、立山、石動山、八海山、妙高山、中部の富士山、木曽御嶽、戸隠山、秋葉山、飯縄山、伊豆山、金峰山、養老山脈、伊吹山、御在所岳、近畿の熊野、大嶺山、吉野山、葛城山、金剛山、比叡山、比良山、愛宕山、笠置山、鞍馬山、生駒山、中国地方の後山、四国の石鎚山、剣山、象頭山、九州の英彦山、開聞岳、求菩提山。
サラリーマン時代に休日を使って登山した山もあり、托鉢行で旅をしながら行った場所もある。高野山で大阿闍梨(だいあじゃり)について修業していた間も、折を見ては各地を回った。何年もかけて私は日本の霊場と呼ばれる場所を歩きつくした。行った先で、いつも国土地理院の発行する地図を買って持っていて、それをつなぎ合わせて大きな一枚の日本地図を作り上げた。

2009年9月7日月曜日

新刊書籍のお知らせ

9月28日(都心部は9月24日)に釈老師がSoftBank Creative社より「死ぬのに適した日などない」というタイトルで本を出版いたします。
自殺の止まらない我が国への憂い、そして、心の弱った人たちになんとか生きてほしいという願いのこもった本です。
みずからの苦しい生い立ちを経て、老師がたどり着いた境地とは?
ぜひ、お手にとってお読みください。
詳しくは、HP(URL: http://www.syakusyorin.com)の新着情報をご覧ください。
書籍の購入は一般書店および、Amazon.co.jpにてお願いいたします。

2009年9月6日日曜日

マザー・テレサ 6

マザー・テレサは言う。
「見捨てられて死を待つだけの人々に対し、自分のことを気にかけてくれた人間もいたと実感させることこそが、愛を教えることなのです。」
私が見た先ほどの男性も自分の死期を悟り、ここへ来た。彼は異教徒からの施しをいさぎよしとせずにコップの水を拒んだが、最期にシスターらの優しさに触れ、感謝の言葉を述べた。そして来世では人のために尽くしたいと語ったという。老人と見えたが、実際は四十代だったそうだ。インドには彼のような恵まれない人々が多くいて、マザー・テレサは彼らの為に一生をささげた。
私は来訪の目的を、自分が師匠を失いどのように生きたらよいか迷っていて、ここに来ればなにかわかるのではないかと思ったと告げた。マザー・テレサの言葉はこうだった。
「あなたが日本という素晴らしい国に生まれ、男性であり、いま僧侶であるという事実は変えようのないことでしょう。ならば、その運命を受け入れ、出来ることを坦々としなさい」
ミルクティーを頂きながら話した時間は二十分程度であったろう。しかしこの出会いは、私に大きな覚醒をもたらした。それ以来、私は宗派にこだわらずに自分の道を行こうと心に決めた。