2009年6月21日日曜日

14. 不思議な炎 3

山には死者の霊がいると古くから信じられてきた。
青白い炎を人魂だと思ったのは、お盆の時期だったせいではない。
以前同じ場所で、不思議なものと遭遇した経験があった。

それは二年目の冬、一月八日のことだった。
午前四時ごろ、岩屋を越え足元だけを見ながら一心に登っていると、ふと人とすれ違う気配を感じた。驚いて振り向くと二メートルほど先に人影が見え、むこうも振り向いて私のことをみた。
その姿は青白かった。長い髪をしていたので女性とわかった。
目や鼻や口は輪郭がはっきりせず、上半身はぼんやりとしていて、下半身は闇に隠れて見えなかった。見つめていたのは二秒ほどであったろうか。
「見てしまった」と思い、すぐに目をそらした。全身から鳥肌がたった。
それに囚われてしまうと山を登れなくなるので、すぐに気持ちを入れ替え一心に山を登った。日付を正確に覚えているのは、その日から雪が降り出し、何日も続いたからだ。

幽霊らしきものを見たことは、もう一度あった。それは三年目の秋口のことで、場所も同じ岩屋を少し登ったところだった。その時もはっきりとすれ違う気配を感じた。 
おそるおそる振り返ると五メートルほど先に、男三人の足だけが見えた。
それが人間ではないことはすぐにわかった。全く足音が聞こえなかったからだ。
ニッカポッカを穿き、編み上げ靴を履いていたので、軍人達のようにも見えた。
上半身の見えない男達は、すぐに暗闇の中に消えた。

不思議な出来事はこれだけではない。
この岩屋に籠もって声明(しょうみょう)を唱えていると、蝋燭の火が高く燃え上がり火柱になった。火柱の高さは一メートルにも思えた。 
この現象は何度か起きた。それは毎年お盆の時のことだった。

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