山の中腹に猪がいた。猪は私を見ると体をひるがえし、尻をむけた。
次の日も同じ場所に猪はいた。またくるっと後ろをむいて、ぶるぶると尻を振るわせた。最初その行為が何を意味するかわからなかった。くる日もくる日も猪は私を見ると尻を見せた。
かつて私を追いかけてきた猪であろうか。また追いかけて気やしないかと思うと怖かった。その猪がウリ坊を連れていたので、メスだとわかったときに、もしかしたらあの猪は私に交尾を迫っているのかもしれないと思いついた。そう思うと私は森の一部として受け入れられたと思えてうれしかった。
木々が芽吹きはじめた。幹を抱いて耳を当てると、木が根っこから水を吸い上げる音が聞こえてくる。草や木や石ころにも神や仏があるという。丸三年かけて千日の山歩きをした。そして、自分が草や木や石ころと同じということに気がついた。
千日を歩き終えたとき、やりとげたという感慨は浮かんでこなかった。
ただ自分が自然の中にいるという思いだけがあり、それが至極当然のことに思えた。
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