山に雪が降った。
私が起きるのは深夜の一時過ぎだが、叔父のしげさんはいつも私より早く起きて竈に火を入れていた。木作の家ではまだ薪を使って火を起していた。
私が目を覚ますと、いつも熱いお茶を入れてくれた。時々私のかわりに塩おにぎりを握ってくれたが、しげさんのむすぶおにぎりはまんまるだった。
山道では木のスコップで積もった雪を掻き分けながら進んだ。
山から降り、食事の時間になるとしげさんが味噌汁をつくた。
叔母は知的障害のある叔父になにか役割を与えようとして、味噌汁を作るのはいつもまかせていた。冷えた体に熱い味噌汁がしみた。しげさんは「ぼう、旨いか」と聞き、私が「美味しい」と答えると、何杯でもおかわりを持ってきた。
ある日、目を覚ますと外は吹雪だった。
お茶を持ってきたしげさんが、心配そうな顔をして「行くんか?」と聞いた。
私は黙ってうなずいて、かんじきを履いて出かけた。木々に囲まれた山の中は風もなく暖かだった。
登山道の石段は雪が積もっていたが、すっかり記憶した石に足をかけて峠まで登った。峠から山頂までの尾根では、昨日スコップで作った道も、すでに埋もれていた。
踏みしめると脚がずぼりと雪に埋まった。頂上では風が強く、読経をする私の顔に雪があたった。雲のせいでご来光を仰ぐこともかなわず、読経を終えると、早く山を降りようと思いながら、私は尾根道を下った。
尾根道が急な坂になっているところを、私は飛び跳ねるように降りていった。
その時道を踏み外し、山の斜面を二十メートルほど転げ落ちた。
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