2009年8月24日月曜日

裏高野山 2

最初は寺の庭を掃いたりすることから始め、こちらから教えを請うことはあえてしなかった。ある日、阿闍梨(あじゃり)が私に「あんた、山に薪を取りにいってくれんかね」と頼まれた。
それから私はこの寺を訪れるたびに背中に籠を担いで薪拾いに出かけた。阿闍梨が所有しているという山は寺から離れた場所にあり、私は何キロもの距離を歩かねばならず、寺に戻れば鉈(なた)で薪割りに精を出した。

私が阿闍梨に言われて嬉しかったことは、私の頭の形を褒められたことである。
私は映画『エイリアン』に出てくる怪物にも似た自分のとんがり頭が嫌いだった。ところが阿闍梨に言わせると、この頭の形は「霊骸(れいがい)」といい、とても珍重されるものだそうだ。
古代の中国では、この形をした頭蓋骨を持つと、未来を予知するなどの霊力を与えられると信じられ、為政者たちがこぞって求めた。そのために中国では、その形をした頭を持つ者の生首を切られるという悪行が横行したらしい。
唐の時代に入唐した円珍(えんちん)が、私と同じように竹の子のような頭を持っていたので、指導僧から、不埒(ふらち)な輩に頭を狙われるから注意するように、と言われたと伝えられている。天台宗寺門派の開祖となる円珍和尚になぞらえられたことは嬉しかったが、生首をかき切られるというくだりは愉快なものではなかった。

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