2009年6月23日火曜日

15. 雪山の遭難 2

私の体は腰まで雪に埋もれた。動こうとしたが、身じろきができなかった。
手で目の前の雪を掻き分けた。掻き分けた雪を手で押さえつけて固め、その上に雪の中から引き抜いた足を乗せて、さらに踏み固めた。
前に進もうとすると、また腰まで雪に埋まった。再び手で雪を掻き分けて固めて段をを作った。その段に体を乗せ、前に進んだ。

断崖というほどの急な斜面ではなかった。周りには木々が立ち並んでいた。
ところが体は前に進まなかった。手は赤くなり、痛んだ。
雪を掻いては、手を脇の下に挟んで暖めることを繰り返した。
次第に指の感覚もなくなった。

一メートルほど進む頃には、疲労困憊していた。汗をかくとかえって体が冷えた。 
体を動かさないように動かしながら、少しずつ登った。
二メートル進むのに二時間ほどかかったのではなかろうか。 時計をつけているわけではなかったが、雲の上で太陽が高く昇っているのが分かった。
山で死ぬとはこのようなことかと思った。

私は映画『八甲田山』を思い出した。あの映画を見たのは正眼短期大学の一年生の夏休みだった。正眼寺が毎年行う夏期講座に学生が手伝いに駆り出された。
二泊三日の講座を終えてから、みんなで柳ヶ瀬にくりだした。
岐阜の花火大会があって見た。そのあと二十人ほどの仲間と深夜上映の映画館に入った。

日本陸軍が八甲田山で行った雪中行軍の演習中に吹雪に遭遇し、二百十名の隊員のうち百九十九名が死亡した実際の遭難事故を題材にしたこの映画は、高倉健をはじめとしたオールスターキャストで、公開当時に大きく話題になった。
映画を見ながら、なぜこの程度の雪で遭難するのだろうと不思議に思った。
映画を観た後、みんなで朝まで飲んで騒いだ楽しい思い出があった。

0 件のコメント:

コメントを投稿