寮の朝はとても早い。 直日(じきじつ)とよばれる当番が、振鈴(しんれい)を鳴らしながら叫ぶ「開静(かいじょう)」の声で起される。
すばやく寝具を片付け、洗面をすませ外に出ると、まだ真っ暗だ。
体育館(禅堂)に学生全員が集められ、読経と座禅で一日が始められるのが午前四時半。約四十分の読経は一週間で経本一冊の暗記を求められる。
その後、およそ一時間の座禅がある。
壁を背に二列に向かい合って座り、真ん中を寮監と二回生の直日が警策(けいさく)を持って監督する。警策とは座禅中に眠気を催した者や心を乱した者を打つ痛棒のことで、これを行ずる者には力の加減など繊細な技術が必要なため、本来なら修行の進んだ者しか行うことができない。
寮監は資格を得た僧侶であったため上手に警策を打てたが、二回生は力任せに打ちつけてきたので、打たれるほうはたまらなかった。
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