私には素晴らしい環境であったが、耐えられない者たちもいた。
それは決まって寺の息子達だった。 退学も落第も許さない校風だったので、辞めるには逃げ出すほかない。
同期生の何人かは逃げ出した。同室だった正田(仮名)もそうだった。大きな寺院の跡取りであることを鼻にかける話し方をする正田はみんなにいじめられた。 それに耐えられなくなり、ある日学校からいなくなった。来る者を拒まない学校だったが、去るものは追った。
いなくなったことに気が付いた我々が追いかけたら、正田は山の中の一本道をとぼとぼと歩いていた。我々に引きずり戻されると、先輩達にボコボコに殴られた。
正田は懲りずにまた逃げた。我々は先回りして駅で捕まえた。
逃げ出す先は実家の寺とわかっていたから、その寺の門前で待ち構えて捕まえたこともある。
正田は都合四回脱走を試みた。
一本道ではすぐ見つかると知った彼は、四回目に山の中に逃げた。
入学して四ヶ月後のことである。正田の行方はそれっきりわからない。
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