先輩達に殴られることは日常で慣れっこになったが、元ヤクザといわれる岡野は少し違った。理由など特になくても殴ってきた。 目が合うと、「なんだその目は?」と言われる。「何でもありません」と答えると、「ふざけるな」といわれて殴られた。
誰もが怖がって、この岡野と目を合わせようとしなかった。私はこの岡野に目をつけられた。意味もなく呼び出されると、生意気だという理由で殴られた。私はこの岡野だけは許せなかった。いつか仕返しをしてやろうと思っていた。
いつも殴られている一回生が、年に一度、憂さ晴らしをする儀式があった。
「どやし」とよばれるその儀式は、学校が黙認する無礼講だった。その日だけは一回生は二回生を殴ってよい決まりになっていた。 この機会に私は岡野をやっつけよう心に決めていた。正月休みで実家に帰った折に模造刀をもちだした。
節分の日の夜、飲み会を開いた。その時に二回生をとことん酔っぱわせる。その後、二回生を真っ暗な体育館に引き入れる。そこには一回生が待ち構えていて、一斉に殴りかかる。二回生も抵抗するがなにしろ酔っ払っていて、一回生は素面(しらふ)だ。私は岡野に狙いを定め摸像刀で殴りつけた。その晩は大乱闘になった。翌朝は血だらけの体育館にみんなで倒れていた。岡野は大怪我をして病院に運ばれた。
そしてそのことは学校で問題となった。いくら学校が黙認してきた伝統行事とはいえ、怪我人をだすのは初めてのことである。この事件をきっかけに私がヤクザの息子であるという素性が皆に知れた。私はここでも怖れられる存在となった。
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