2009年7月14日火曜日

3. 寮の一日 3

朝食の後、掃除があり、それを済ませると八時半。大学の授業は九時から始まり、午後三時までカリキュラムがびっしり詰まっていた。一般教養と専修科目の他、茶道、華道、書道があり、剣道、柔道、少林寺拳法などの武術も必修とされた。他校のようにスポーツなどの部活はなく、講義後の活動は武術だけだった。
厳しい環境であったが、私の性に合った。私は初めて真剣に、がむしゃらに勉強をした。
自分にそんな一面があったことが、自分でも意外だった。先輩達に殴られるのは辛かったが、ここでは私は疎外感を感じずに済んだ。殴られるのは後輩達はみな同じだった。先輩達はそれを「慈悲の拳骨(じひのげんこつ)」とよんだ。臨済宗は、元来、武家の宗教だったせいもあり荒々しさを売りにしていた。特に正眼時は「鬼の正眼」とよばれていて、この大学もその気風を引き継いでいた。

寮に戻ってもテレビがあるわけでもなく、楽しみといえば酒だけだった。日本酒の一升瓶を抱えて毎日部屋で飲んだ。飲んで話すことと言ったら、禅とは何か、といった真面目な話である。
私はここで、人生とはなにか、自分の将来はどうあるべきか、といったことを考える時間を得た。生まれて初めて仲間を持てたと思った。元自衛官の吉本(仮名)だけはそんな仲間に加わらず、毎日外に一人で飲みに出かけていた。消灯は九時だったが、みな蝋燭の灯りで飲み続けた。
寮の各部屋には、どこも同じように蝋燭の灯りが揺れていた。

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